名前とメッセージ入りのオリジナル掛け時計の製作手順について

名入れ掛け時計の製作手順の説明です。図案やマスキングシートの製作方法、マスキングの仕方やサンドブラスト工程などを紹介しています。

1.彫刻用図案の作成

掛け時計の大きさに合わせて文字や絵柄をレイアウトして、彫刻用図案を作ります。文字が小さすぎると、彫刻した時につぶれて判読できなくなるので、大きさに注意します。
数字やアルファベットに比べ、漢字はつくりが複雑なので、漢字を用いた文書をレイアウトする場合は、文字の大きさや太さに注意します。
絵柄については、複雑なものや線が細いものは彫刻できないので、注意が必要です。

2.図案の印刷

透明なフィルムに、1.で作った図案を黒のインクで印刷します。このフィルムを基にして、サンドブラスト用のマスキングシートを作ります。
透明なフィルムに印刷する理由は、このフィルムに紫外線を当てて紫外線硬化型の樹脂シートに図案を転写する際、紫外線の当たる部分と当たらない部分を作り出すためです。また、黒のインクで印刷する理由は、黒色は紫外線を吸収して通しにくいためです。

3.紫外線硬化型の樹脂シート

紫外線を当てることによって硬化する樹脂シートです。このシートに彫刻用図案を転写して、サンドブラスト用のマスキングシートとして使用します。
気温によって反応性が変わるため、紫外線を当てる時間で反応の度合いを調節します（気温が低いときは反応性が落ちるので、紫外線を当てる時間を長くします）。しっかりと反応して硬化していないと、次の工程でシート全体が溶けてしまうので注意が必要です。

4.マスキングシートの作製

図案を印刷したフィルムと、3.の樹脂シートを重ねて紫外線を当てた後に、弱アルカリ性の溶液で樹脂シートを洗います。
フィルムに印刷された図案の黒い部分が紫外線をカットするので、文字や絵柄の部分は硬化せず、溶けて洗い流されます。
これを乾燥すると、写真のような文字や絵柄の部分だけが抜けたサンドブラスト用のマスキングシートが出来上がります。

5.彫刻用の掛け時計

名入れを施す掛け時計です。掛け時計の前面ガラスの裏側に彫刻を施します。前面ガラスの裏側に、文字を溝状に深く彫刻することにより、掛け時計を表側から見たとき、彫刻した文字が盛り上がって見えて立体的な仕上がりになります。

6.マスキングシートの貼り付け

掛け時計から前面ガラスを取り外し、前面ガラスの名前やメッセージを彫刻する部位に、ハケでノリを塗ります。ノリの厚さにムラがあると、サンドブラスト加工したとき、彫刻される深さが部位によって変わり仕上がりに影響するので、厚さが均一になるように注意して塗ります。ノリの乾燥後、マスキングシートを貼り付けます。
マスキングシートは薄くデリケートなので、一度貼り付けると破らずに剥がすのが難しいため、慎重に位置合わせをして失敗しないように貼り付けます。また、接着面に気泡ができないように注意します。
サンドブラスト工程でマスキングシートがはがれないように、さらに指で圧着して前面ガラスに密着させます。

7.全体のマスキング

サンドブラスト加工で砂が狙いとは違う部分に当たらないように、マスキングシートで覆われていないガラスが露出している部分を、ガムテープでマスキングします。
次に、サンドブラスト中にエアーの圧力でガムテープが剥がれてこないように、しっかりと指で圧着します。隙間があると、そこから砂が当たってしまい仕上がりに影響するので、注意深くマスキングします。

8.サンドブラストの装置について

サンドブラスト加工で使う縦1.5m×横1mぐらいの箱状のキャビネットです。前面の扉には、作業中に内部を見るためのガラス窓と、扉を閉めたまま内部に手を入れて作業するための手袋が付いている小穴が開いています。
このキャビネットの中でサンドブラスト加工を行います。中にはコンプレッサーからのエアー供給用のホースにつながっているサンドブラストガンがあります。また、下の部分には金剛砂がたまっていて、それをエアーの圧力で吸い上げ、サンドブラストガンから吐出してサンドブラスト加工を行います。加工中は砂や削られたガラス粉がキャビネット内を舞うため、それらを吸い取るための集じん機がホースでつながっています。

9.サンドブラストガン

キャビネット内で使うサンドブラストガンです。本体は金属製で、先端のノズルの横にキャビネット内の金剛砂を吸い上げるホース、グリップにはコンプレッサーからのエアーを供給するホースがつながっています。
エアーを吐出すると圧力で金剛砂が吸い上げられ、先端ノズルから砂の混ざったエアーを吐出して彫刻します。エアーのオンオフは、足元にあるフットスイッチで電磁弁を開閉します。
ノズルはセラミック製なので、使用しているうちに砂によって摩耗され、穴の内径が大きくなってきます。吐出される砂が広がって彫刻をしづらくなるので、その場合は、新品のノズルに取り換えます。

10.金剛砂

サンドブラストの研磨材として用いる金剛砂です。粒度によって種類分けされていて、細かいものを彫刻する場合や深く彫刻する場合など、状況によって使い分けます。
使用しているうちに砂の粒が小さく軽くなり、作業効率が悪くなるので、その場合は新しい金剛砂を補充します。

11.サンドブラスト加工

前面ガラスをキャビネットの中に入れ、前面の扉を閉めます。密閉されたキャビネット内で、マスキングシートの文字や絵柄の形に抜けている部分（ガラスが露出している部分）に、サンドブラストガンで金剛砂をぶつけて彫刻を施します。
吐出するエアーの圧力、金剛砂の粒度や当てている時間によって彫刻する深さを調節します。彫刻された深さが部分的に異なると美しくないので、ノズルから吐出される砂でゆっくりと小さな円を描くようにして、全体に均一に当たるようにします。その際、砂がガラス板に90度の角度で当たるようにします。

12.サンドブラスト完了

サンドブラスト加工が完了した状態の前面ガラスです。
彫刻した部分はスリガラス状に白くなり、しっかりと図案が彫刻されました。写真ではわかりづらいですが、1mmほどの深さに彫刻してあります。
彫刻部をより際立たせるために着色加工する場合は、このまま塗料を流し込み、乾燥させます。

13.名前とメッセージ入りのオリジナル掛け時計の完成

着色用の塗料が乾燥した後、マスキングシートやガムテープを剥がして水洗します。ガラス表面についている細かな砂で傷がつく場合があるため、水洗はやわらかいスポンジでやさしくなでる様に行います。

前面ガラスを時計基部に取り付ければ、名前とメッセージ入りのオリジナル掛け時計の完成です。前面ガラスの裏側に彫刻してあるので、掛け時計を表側から見たとき、彫刻部が盛り上がって見えて立体的な仕上がりです。